奈良大学 文学部
奈良大学 文学部
最近、地域活性化に活用されている「方言」。徳島県でも「アルデナイデ」(あるじゃないか)といった方言がテレビCMで使われています。しかし、それらを日常会話で聞くことはほとんどありません。阿波弁といわれる伝統方言と現在の方言に乖離があると考え、徳島市域を中心にアンケート調査を行いました。項目は伝統方言について「使う」「使わないが聞いたことはある」「聞いたこともない」から一択形式。結果を若年・中年・老年に分けて分析したところ、老年しか使わない方言は衰退し、3世代が使う方言は今後も残るだろうという結論に至りました。
2021年度執筆 卒業論文より
オノマトペには擬音語と擬態語があり、簡潔で様子がイメージしやすいのが特長です。絵本におけるオノマトペを『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』(小野正弘編)に基づいて分類しました。対象にした絵本は『こどものとも』(福音館書店)。成長に伴い、歩く様子の“とことこ”といった「動作・状態」のオノマトペは減り、物事が進む様子の“どんどん”など「動き・変化」のオノマトペが増えることが判明。食事に関するオノマトペは、年少版では食べる「動作」を表し、年長版では食べる「状況」を描写するなど、複雑になることがわかりました。
2021年度執筆 卒業論文より
アイドル育成ゲーム『あんさんぶるスターズ!』のイベントストーリー「噪音♦渦巻くホラーナイトハロウィン」はアイドルの炎上がテーマですが、その内容を巡って現実でも炎上。メディアによるこれまでの分析では、ストーリーキャラクターが「推し」か否かが炎上の原因とされてきました。特定のキャラクターを「推す」ユーザーの心理はどういうものか。問題になったキャラクターの言動を分析したところ、ユーザーの理想と大きなズレが判明。2次元と3次元のファンを比較した結果、理想が崩れた時の行動は変わりませんでした。ファンは「推し」のためでなく、自分のために「推す」という結論に至りました。
2021年度執筆 卒業論文より
題材は上田秋成の読本『雨月物語』。第二編「菊花の約(ちぎり)」に出てくる「軽薄の人」を巡る研究はこれまで数多くされてきましたが、「軽薄」とは何かについてはあまり触れられていませんでした。そこで、作中の「軽薄」の意味を明らかにすることに。まず、辞書や注釈書、他の作品の用例などを使って「軽薄」の定義付けを行いました。次に、山本和明氏の研究を参考にして、「菊花の約」における「信義」について考察。主人公・左門のように「軽薄」でも「信義」を貫くことは可能で、「軽薄の人」を否定するものではないという説を唱えました。
2021年度執筆 卒業論文より
かつてソ連が「誰もが平等な社会」を掲げ、「社会主義」「共産主義」をめざしたことは、壮大な社会実験といわれています。注目したのは、それに先駆けてロシア内戦期に行われた「戦時共産主義」と「新経済政策」。「戦時共産主義」は土地や企業の国有化といった急進的な政策、「新経済政策」は内戦末期に導入され、市場経済の一部容認など資本主義的な要素を復活させた経済体制です。これらを単なる失敗として捉えるのではなく、資本主義の限界が顕著になりつつある今、新たな社会の実現に向けて再評価・再検討することが必要だと考えます。
2019年度執筆 卒業論文より
初期室町幕府における政治体制は、足利尊氏・直義の「二頭政治」だと佐藤進一氏が唱えていましたが、近年はその説が見直され、直義を実質的な将軍、幕府の主宰者とみる研究者も出てきています。こうした動きを踏まえ、佐藤氏が直義の権限の中核と評した訴訟裁決権行使の現場から、改めて直義の政治理念を読み取ることに。現存する90通の裁許状(判決文)すべてに目を通し、判決の傾向を分析。その特質が最も示されている裁許状2点を基に、荘園領主の権益保護と武家の利害尊重をバランスよく整えたことに直義の面目があると結論付けました。
2021年度執筆 卒業論文より
江戸幕府の五代将軍・徳川綱吉による「生類憐れみ」政策が、地域にどう影響したか。会津藩を取り上げ、史料を丹念に読み解きました。すると、会津藩では「犬殺」「犬喰」の風習があったことが明らかに。「生類憐れみ」政策によって取り締まりが強化された一方、風習が強固に受け継がれていったという側面も浮かび上がってきました。また、狂犬病である「犬煩」への対処について、全国的には犬を殺すことが多かったが、会津藩では呪術的な方法をとっていたことも判明。「生類憐れみ」政策に対する会津藩の特性や実態が明らかになりました。
2021年度執筆 卒業論文より
第二次世界大戦後の日本占領について、米国による占領政策が研究の主流です。また、英連邦占領軍(BCOF)の占領政策でも、主に英国と豪州について分析されています。そこで、BCOFの占領政策におけるニュージーランドの役割と、戦後の国際関係におけるニュージーランドの位置付けに着目。ニュージーランド国立図書館や国立国会図書館からの一次資料と、ニュージーランド軍が駐留していた山口県萩市の歴史を記述した『萩市史』を相互に検証した結果、萩市がニュージーランドによる非軍事・民主化政策の拠点になっていたことを浮き彫りにしました。
2021年度執筆 卒業論文より
新型コロナウイルス感染症が広がる今、大規模地震など災害が起きる事態にも備えなければなりません。避難所においても新型コロナウイルス感染症への対策が求められます。そこで、全国1741市区町村に避難所の備品に関するアンケートを実施。回答が得られた348件を集計・分析し、感染症拡大防止対策が非常食に次ぐ重要性を示しました。調査結果をもとに、避難所備品を100点満点で評価するシートを作成。シートに基づいて、香川県高松市と愛媛県松山市の7つの小学校避難所の備品を現地調査したところ、評価が40~60点と低かったため改善方法を提案しました。
2021年度執筆 卒業論文より
「ナラ枯れ」とは、コナラやミズナラなど、ナラ・カシ・シイ類のブナ科の広葉樹で起きる伝染病。体長5ミリほどの「カシノナガキクイムシ」という昆虫が媒介する「ナラ菌」によって、樹木が感染すると水を吸い上げる機能が妨げられ、枯れてしまうのです。近年、全国的に広がっており、奈良市や生駒市では2016~2017年に被害が増加しました。奈良市周辺のナラ枯れ被害を把握するため、実地調査とドローンによる空中写真判読を実施。ドローン画像で枯れた木を判読できるが、下層部は空中写真判読だけでは十分に確認できないことがわかりました。
2021年度執筆 卒業論文より
人の流れを把握するには、国勢調査や、「人の動き」を調べるパーソントリップ調査といった統計資料を用いる方法があります。近年はビッグデータの活用も進められています。本研究では国勢調査のデータを用い、2000年以降の京阪神圏における通勤構造の変化を分析しました。年齢別や男女別のほか、「都市部・近接地域」と「中山間地域・山間地域」に分けて解析した結果、大阪市への通勤率は減り、周辺都市への通勤率が増えていることが明らかに。男性の人口構造の変化、女性のライフスタイルの多様化、郊外での雇用増加などが理由だと考えられます。
2021年度執筆 卒業論文より
富山市は2006年、利用者が減少していたJR西日本の富山港線を、第3セクター方式で本格的な次世代型路面電車である「富山ライトレール」として再生しました。JR富山駅をはさみ、北側の富山ライトレールと南側を走る富山地方鉄道の路面電車が、北陸新幹線開業に伴う富山駅の高架化で2020年に接続。富山ライトレールは富山地方鉄道に吸収合併されました。直通運転の効果を検証するため、富山駅で200人にアンケート調査を実施。その結果、通勤・通学で週5~6回利用する人が多いことや、利便性向上により利用者の満足度が高いことがわかりました。
2021年度執筆 卒業論文より
2014年から、奈良大学文学部と奈良県斑鳩町は共同で、斑鳩町にある直径35mの円墳「斑鳩大塚古墳」を調査しています。発掘調査をしていたところ、見慣れない土器が出土しました。直径20㎝くらいの椀の蓋に、環状の突帯が貼り付けられています。類例を集めてみると、奈良県、大阪府、京都府、兵庫県で出土し、どんぶりのような器とセットであることが判明。3段階の形の変化がうかがえたことから7~8世紀の須恵器で、全体像を調べると朝鮮半島の仏具を模した土器であることがわかりました。たった1片の土器から、研究が始まることもあるのです。
2021年度執筆 卒業論文より
江戸幕府初代将軍の徳川家康によって、上洛時の宿所と京都御所の守護を目的に築かれた二条城。特別名勝「二の丸庭園」は、二の丸御殿とともに、3代将軍家光の時代に天皇行幸を機に造られました。庭園は二の丸御殿(将軍の座)と、行幸御殿(天皇の座)から鑑賞できる設計でした。現在は撤去された行幸御殿の周辺は、庭園保護のため立ち入り禁止になっていますが、特別な許可を得て庭園を分析。将軍側からの眺望は天守を借景に強さが際立っていたのに対し、天皇側からの眺望は優美さが感じられる造形にしたという違いがわかりました。
2021年度執筆 卒業論文より
華やかな衣装をまとった遊女たち。誇らしげに歩き、舞い、歌い、踊る。近世風俗画には、庶民の生きる歓びや楽しさが生き生きと描かれています。その魅力にひかれ、「カブキモノ」を研究することに。まず、「阿国歌舞伎図」や「阿国歌舞伎草紙」など16点の美術作品を用いて出雲阿国について考察。阿国のポーズやファッションを丹念に見ていくうちに、「カブキモノ」の本質や描く工夫を理解できました。また、異風なる男・名古屋山三が阿国歌舞伎の中で果たした役割についても探究。知れば知るほど「カブキモノ」にハマっていきました。
2021年度執筆 卒業論文より
兵庫県姫路市の英賀(あが)神社では、老朽化した拝殿の改築に伴い、掲出されていた大絵馬のうち、保存状態の悪いものを処分することになりました。文化財学科がこれを実習用教材として譲り受け、状態の記録、機器を使った分析・調査などを行っています。大絵馬の劣化の原因を探るだけではなく、赤外線撮影などを通して新しい知見も得られました。分析・調査の結果をもとに、論文では、描かれた画題の検討から作者の調査、当時の大絵馬の流通まで言及。作者はどのような思いで筆を揮い、奉納したのかなど、人々の思いまで深く探ることができました。
2021年度執筆 卒業論文より
方言は、消滅の危機に瀕していると言われています。一方、SNS では新しい方言を使う若者が増えてきました。そうした「新方言」は、従来の方言とどう違うのか、どう変化しているのか。「新方言」の東西対立に関する調査研究を行いました。全国の大学生 910 余名を対象にアンケートを実施し、新方言についてのデータを収集。分析した結果、新方言は方言と異なる分布や境界線があることが明らかに。また、方言の衰退が確認され、それが新方言に影響していることも判明。さらに、先行研究との比較から、今後は新方言が変わっていくという結論を得ました。
2022年度執筆 卒業論文より
日本神話に登場するタケミカヅチ。茨城県・鹿島神宮に祀られおり、「鯰絵」では地震を起こす大鯰を押さえる姿が描かれています。なぜ地震を抑える神になったのか、各時代の信仰から考察しました。まず、『古事記』『日本書紀』で刀剣神、軍神の神格を持つが、雷神の神格は有していないことが明らかに。次に、『古語拾遺』で「鹿島神」と呼ばれ、『梁塵秘抄』に軍神と記述されていることを確認。そして、江戸時代に流布した「鯰絵」の構図から、悪神や厄災を制圧する役割だと解釈。時代と共に神格が変化したが、その中心は軍神だと論じました。
2022年度執筆 卒業論文より
主人公アリスは聖母マリアと同じ青い服を身にまとい、聖三位一体を象徴する透明の三脚台の上の鍵を用いて「楽園」への扉を開ける。ノアの箱舟のように多くの動物たちを陸地に運ぶ......。『不思議の国のアリス』には、キリスト教の要素が随所に織り込まれています。それらは、当時の教会の儀式主義と、真の信仰を忘れた大人たちの世界への批判であり、作者ルイス=キャロルは彼なりの信仰をアリスに託したのではないか。多くの先行研究からキャロルの葛藤と、挿絵作家テニエルとの関係を紐解き、本文と挿絵から全く新しい見方を提示しました。
2022年度執筆 卒業論文より
川端康成の小説、中原淳一の挿絵、宝塚歌劇や海外映画のスターの情報......。1908(明治41)年に創刊され、55(昭和 30)年に休刊した少女雑誌『少女の友』は、多くの購読者を獲得していました。こうした少女雑誌を題材にして、近代の少女像を究明しようとする先行研究はありましたが、本論文では投書欄に着目。読者の居住地域の分布、雑誌編集者との間に形成された関係、投書の文体などを、その変化の相とともに多角的に分析しました。近代日本における少女観を論じるとともに、投書欄を通じた少女共同体の形成などの問題提起も行いました。
2022年度執筆 卒業論文より
インドネシアでは毎年、乾季に熱帯林や泥炭地で火災が発生しています。特に深刻なのが泥炭地。枯れた植物が分解されずに堆積した泥炭層は最大 20 メートルにも及びます。泥炭は乾燥すると燃えやすく、一度発火すると消火するのが困難です。研究では、インドネシアのカリマンタン島とスマトラ島、日本の釧路湿原の 3 地点を対象に、気象モデル WRF と現地調査によって土壌水分量と地下水位を解析し、予測モデルを作成。その結果、日本とインドネシアでは土壌水分層に違いがあり、インドネシアでは3層目と4層目が予測モデルに有効だとわかりました。
2022年度執筆 卒業論文より
近年、注目を集める「聖地巡礼」。アニメのファンが作品ゆかりの地を訪れる観光行動について、現状と課題を調べました。対象にしたのは、『響け!ユーフォニアム』の舞台モデルとされる京都府宇治市と、『花咲くいろは』の舞台になった石川県金沢市湯涌町。聖地巡礼の先行研究を整理するとともに、2 つの地域における企業や自治体による取り組みをまとめました。また、宇治市観光センターに設置してある「聖地巡礼ノート」を分析し、現地でのアンケート調査も実施。その結果、聖地巡礼者と地域住民との人間関係が最大の課題だと論じました。
2022年度執筆 卒業論文より
古くから日本では書籍に和紙が用いられてきましたが、明治以降に使われた洋紙は、インクのにじみ止め用の薬品が原因で茶褐色化・硬化し、ボロボロになってしまうのが難点です。紙の酸性劣化は「スローファイヤー(ゆっくりとした火災)」とも呼ばれ、図書館で問題になっています。そこで昭和元年から昭和19年までの教科書を入手し、紙の強度やpHを測定。古いものほど酸性劣化が進むわけでなく、太平洋戦争を境にした紙質の低下に伴い、酸性劣化が増すことを突き止めました。資料として教科書の一部を貼り付け、実際に紙質を触って確認出来るようにしています。
2022年度執筆 卒業論文より
豊臣秀吉は没後、豊国大明神として各地の豊国神社などで祀られました。その後、信仰は下火になりましたが、今も多くの絵画や彫刻が残されています。研究では、現在確認できる豊国大明神の彫像 24 体を網羅的に検討し、分析しました。豊国大明神像木像は最初、等身大の人間の姿をしていましたが、次第に像高が低くなり、体を大きく見せる神威表現が表れるように。また、頬のこけた生前の秀吉を彷彿とさせる風貌から、威厳ある老翁神の風貌に変容すること、さらに時代が進むと秀吉らしさが減り、一般的な神の表現に近づいていくことを明らかにしました。
2022年度執筆 卒業論文より